荒井明夫ブログ

「高等教育無償化」という欺瞞

10月1日の消費税増税を合理化する理由として「高等教育無償化」が喧伝されている。これは本年5月17日の参議院本会議で「大学等における修学の支援に関する法律案」が可決されたことを受けて、政府および一部マスコミが高等教育が無償化されるかのように報じているものである。
しかしこれは人権保障としての「高等教育への無償化への漸進」と全く無縁な内容であることを強調しておきたい。可決された「大学等における修学の支援に関する法律」の要点は次のようになる。支援対象となる学生家庭の収入条件は、住民税非課税世帯・年収300万円未満世帯・年収300万円以上380万円未満の3区分とし、授業料減免(私立大学においては授業料減免の上限が70万円、入学金は25万円)と給付型奨学金を措置している。
ここで問題となるのは、現行の高学費・高授業料制度下では、既にこうした低所得層は大学進学機会を事実上失っているという実態と、さらにいえば中間所得者層は支援対象から除外されこれまで同様の高学費となるということ(つまり制度のリアリティの欠如)。それとともにむしろ各大学が独自に実施してきた経済困窮学生対象の救済措置(給与所得者840万円までが対象)は修学支援枠組みに一本化されるため、結果として現行制度が大幅に後退・改悪され、現在授業料減免を受けている学生に不利益が及ぶ事態となっている。
各大学はといえば、政府の喧伝する「高等教育無償化」に乗り遅れないようにと政府のいう修学支援に一本化すべく大学の制度的環境を整えているという情けない実態がある(政府の補助金を盲目の内に求める体質の大学へと変質するという別の意味での恐ろしい実態である)。支援対象となるために各大学に求められる機関要件とは、「実務経験のある教員による授業科目が標準単位1割以上」「法人理事に産業界の外部人材を複数任命」が盛り込まれていることである。みてお分かりのように、なんのことは無い「修学支援」名目の政府による財政誘導の大学統制にすぎないのである。「高等教育無償化」とはほど遠い実態を広く理解して頂くとともに、言葉の真の意味での「高等教育無償化」の政策展望と実現に向けた努力こそが求められているというべきであろう。